1日目ー堕ちた天才、迎えるは鬼才ー

「そこ、間違ってる」
 梓が指摘すると30代も半ばぐらいの研究員は大急ぎでページをめくり、やがて真っ赤な顔で「失礼しました」と頭を下げた。
 適当に修正の指示を出して、梓は椅子をぎしりと鳴らす。
「こんなの、初歩中の初歩だよね。勉強してるの?」
「と、当然です。国内外の学会でも高い評価を得ていると自負しており……」
「ふーん。これでか、そっかー」
 初歩中の初歩、というのは梓の主観でしかなく、実際にはその道の人間が多大な労力を割いてようやく至れる極致ではあるのだが、箱入りの天才にそんなことがわかるわけもない。
「ねえねえ、22歳って、大学院入学ぐらいの年齢なんだよね」
「そうですね」
「私が大学院に入ったら、首席になれるかな」
「……教授達にあなたの言っていることを理解する能力があれば、なれるでしょうね」
 生まれたときから研究所で英才教育を施され。
 徹底的にパラメータをデザインされて作られた『Aシリーズ』。通称、野茨梓。
 天才、というよりは、化け物というのが、梓に接した研究者たちの評価だった。
 ぐいー、と伸びをして、梓は何の意味もなくつぶやいた。
「いいなあ。私も外の世界ってやつに飛び込んでみたいぜ」
「………………」
 その手の話を梓がするのは何回目だろうか。
 研究員は梓の言葉を正確に理解している。
 それは実現不可能な願望、憧れを抱く少女の声音で、決して梓は、本気で実現させる気がないことも。
 だけど、他意はなくても失言というものが存在することも、天才を蹴落としたいと思っている人が多々いることも、今の梓はわかっていなかった。
 だから。
 その研究員が、無防備に机に頬杖をついてあくびをする梓の首に注射針を刺した時、梓は何が起こっているのか全く分からなかった。
「つっ………、あ………?」
「すみません、上からの指示なもので」
 極めて事務的な謝罪を最後に、梓の意識はぷつりと途切れた。
 
■■■
 
「…………ぅ」
 目を開けた梓は、じゃらじゃらという金属がこすれる音で、自分が吊られていることを認識した。
 体の自由を奪われて、しかも裸にされていることを認識して頬を赤らめる。
「な、ちょ……っ」
「ようやく起きたか」
 斜め後ろから声がして、梓はぐるりと首を回した。
 ざっくりと髪を短く切った長身の女性が、簡素な椅子に腰かけていて、梓は叫ぶように声を上げる。
「真壁沙羅っ!」
「声を張るな。狭いんだ」
 つかつかと梓の前に立ち、沙羅は質問する。
「さて、天才。今の状況がわかるか?」
「あんたこそわかってんの? 私の裏に何人の利害関係者がいると思って……」
 ぱあんっ! と。
 頬を張られて、あまりの勢いに梓の首がきしむ。
 もう一度、沙羅は同じことを聞いた。
「今の状況がわかるか?」
「だから、それはあんたのほう……っ!」
 再び。
 一瞬の破裂音と、口の中にじんわりと広がる血の味に、梓は顔をしかめる。それだけの表情の変化でも、すでに頬は引き攣れてぴりぴりと痛んだ。
 沙羅の同じ質問は、また続く。
「今の状況がわかるか?」
「………場所は不明、地下牢、裸、手枷足枷、正面には沙羅」
「いいぞ。従順な猫らしく、呑み込みが早いな」
「誰が、猫……っぐ!」
 口答えをしようとするとまた頬を張られて、急に揺れた視界に気持ちの悪さを覚える。
 ぐらぐらと揺れる頭を抑えることもできずにふらつく梓に、沙羅はバラ鞭を片手に近づいた。
「さて、とりあえずまずは、上下関係を叩きこむところからだな」

■■■

 そして、今に至る。
 尻を中心に下半身を鞭打たれ、すべすべとした肌を真っ赤にして呻く梓に、沙羅は言う。
「バラ鞭の痛みはそうでもないぞ。頼むからこの程度で折れないでくれ。殺したくなる」
「だ、れが……っ! 折れるかっ」
 じんじんと痛む体で必死に地面を踏んで、梓は頭二つ上にある沙羅の顔を睨んだ。
「覚えとけよ! 警備部だかなんだか知らないけど、私がいないと絶対にこの研究所は回らない。立場逆転したらめちゃくちゃに痛めつけて廃棄にしてやるっ」
 ふー、ふーっ、と鼻息を荒げて反抗する梓。
 全裸に鞭打ち。完全に弱い立場の者から必死の抵抗を受けて、沙羅は凄絶な笑みを浮かべた。
「いいぞ、その意気だ。もっと強がれ、もっと耐えろ」
 梓の後ろに回り込み、するすると撫でるように体の上に手を滑らせて、胸と陰毛をやわやわと弄ぶ。
「な、ちょ、っと! 気持ち悪いから離れて、よ。おばさんっ!」
「それは不敬だと言ったはずだ」
「あ、い、いだっ!」
 ぎりぎり、と乳首をつまんでひねり上げる。
 悲鳴を上げる梓の耳に流し込むように、沙羅は話をつづけた。
「痛みと快楽でお前を狂わせる。全力で堕としにいくが、くれぐれも堕ちるなよ。いい加減、軟弱な奴の相手ばかりしていて苛々させられているんだ」
「あ、………く、ぅ」
 つまんでいた乳首を解放し、代わりに爪で軽く引っかけてぴん、ぴん、と弾く。
 見る見るうちに硬さを増してきたそれを今度は指で挟んでくりくりと刺激すると、梓の太腿が内側に向いた。
「………ぅ、………ぁ、ふ……」
「耐えているようだが、不足だな。感じているのがすぐわかる」
「だれがっ!」
「そうか、では確かめるか」
 開いたままの足の付け根に指を滑らせて、大陰唇を広げてやると、透明な液体が沙羅の指に絡んだ。
 その指を梓の口に突っ込んで、沙羅は笑う。
「おい、感じていないならこれはなんだ? 舐めて確かめてみろ。なんだった。ん?」
「うるさいっ!」
「命令に従え」
「ぐっ、がっ、ああああああっ!」
 まとまった量の陰毛を掴まれてぐいぐいと引っ張られ、梓は惨めに腰を突き出して悲鳴を上げる。
 手を離して、沙羅はもう一度問う。
「さっきのあれはなんだった?」
 鞭打ちでじんじんと痛む太腿と、引っ張られた陰毛の痛みを思い出して、梓は口を開きかける。しかし、そこで思いとどまった。
 こんな横暴に、従ってやるものか。
 生まれてから22年。この身全てで研究所の要求を満たしてきた。その結果が、この仕打ちか。
 そんなのは認めない。こんな仇を受ける覚えはない。
 体中を暴れ狂う怒りをそのままに、梓は牢中に反響するぐらいの声で叫んだ。
「知らないっ! 知らないったら知らない! お前のいいなりになんかなってやるかよ、ばかやろぉっ!」
 しばしの沈黙は、梓にとっては文字通りの地獄だった。
 やがて、沙羅の指がすー、と動き出して、体がびくつく。
 恐怖と緊張で震える梓に、沙羅はくつくつと不気味な笑い声で答えた。
「そうか。まあ、初日だから許してやろう。まだ気もやらせていないしな」
「え……ひうっ!」
 いきなりだった。
 梓の肌を舐めるように蠢き、官能的な刺激を与えていた指が、乳首と陰核に添えられて、振動するようにゆすられる。
 敏感な急所を同時に責められて、梓は喘いだ。
「あっ………く、そぉ、ぉぁ、ああ、っふ、く、あ……ぁあ!」
「怒るべき相手に感じさせられるのは悔しいだろう。でもお前は逃げられない。惨めに果てるしかないんだよ」
「ふ、ふん。こんなの気持ち悪いだけ……っひあ、あんっ!」
 女陰を撫でて愛液を纏わせて、潤滑油代わりにぷっくらと膨らんだ陰核をしごいてやると、女の声をあげて悶える。
 腰を引こうとするのを抑え込んで、沙羅は梓を責める手を激しくした。
「あ、ちょ……、とっ。っく、はあ、あああ、ああ」
「望まぬ絶頂を繰り返して、体と心に刻み込め。お前は私の猫で、この施設のモルモットだということをな」
「だれが、だれがっ……あああああっ!」
 うわごとのように叫び、がしゃがしゃ! と鎖を鳴らすも、梓に快楽から逃れるすべはなく。
 腰を抑えられて陰核をしごかれ、乳首は指で挟まれてこりこりと刺激される。昂ってきたのが一目でわかるぐらい腰と胸を揺すって、梓は体を軋ませる。
 そして沙羅は、とどめとばかりにぐり、と陰核を親指で押しつぶした。
「最初の一回だ。打ちのめされて果てろ、モルモット」
 敏感な部分に与えられた荒々しい刺激に、体が硬直する。
 一瞬、震えるからだが固まったのは、耐えるためではなかった。ただ、快楽を受け取った梓の体が、屈服の準備を終わらせただけだった。
 抑えていた快楽が、乳首と陰核から全て溢れる。
 かあ、と全ての感覚が陰核と胸に集中して、梓は股間を前に突き出して絶頂を迎えた。
「く、っそ、くそぉっ……っく、あ、ああああああああああああああっ!」

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